
仕事をしながら牽引免許取得のため教習所へ通う日々。T字路で行われるバックは苦行でしかなかった。ハンドルを逆に切らないといけないため頭の中で「左に切れば右に曲がっていく(反対の場合はその反対に)」と考る必要があった。そのため考えてから行動に移すその間のラグが生じてしまい結果思いとは違う方向に下がっていってしまうのだった。教習所のトレーラーは長さが短いためちょっとのハンドル操作でカクッと簡単に折れてしまう。教官も慰めのように「これは短いからねぇ。直ぐに曲がるんだよ。仕事で乗るようになるのはほとんどが長いやつだからもっとゆっくり曲がるから大丈夫だよ」と言っていた。「こんなに難しいことが、自分の思いにならないことが世の中にはまだあったんだ」と驚きと共に愕然とする日々であった。
そんな感じで牽引免許で悪戦苦闘をしつつも求職活動も平行して行っていた。私が目指していたのは、大型トラックに乗り更にはトレーラーの運転もできる環境であった。給料の額は二の次だった。そうは言いつつも48歳のおじさんを採用してくれるところはあるのだろうか?そんなことが常に頭の隅にありながらまずはネットで検索を始めた。
昨今の運輸業界は慢性的なドライバー不足と言われていて探すのにそんなに苦労はしなかった。結構ある。年齢も制限のかかっているところはあるにはあったが、制限を設けていないところも結構あった。私はその条件から自分が希望するタンクローリー に乗れる所を数カ所ピックアップした。
ここからは少し余談であるが、ネットで調べることに集中してしまうと感覚的に平面というかディスプレイの中で上下左右に展開する情報に頭も目も思考も慣れてしまう。もちろん給料とか場所とか色んな情報があってイメージがつくのであるが、それらイメージに肉感がないのである。リアリティがないのである。そのことに気がついたのは自分の足でいくつかの会社を回った時だった。実際に自分の足で回ってみると、空の色だったり、工場の煙突から流れ出す煙であったり、その場の匂いだったりまた『ドライバー募集!!』という朽ちた立て看板が立っていたりリアルなそこが浮き出てくるのだった。仮装と現実の両方はセットでないと確かなものには近づけないなあ、と凄く勉強なった。