
運送業界に転職する前、私は福祉業界で長らく働いていた。その福祉業界での仕事は、親から虐待を受けて家にいられなくなった子どもたちを施設に受け入れて生活を一緒にするというものだった。私は間違いなく福祉の現場にいて不遇な境遇の子どもたちとその家族を見てきた。そこを福祉の地平と言うとしよう。
場面は変わって私はその時運送業界にいて、その日も某ガソリンスタンドで荷下ろしをしていた。仕事もだいぶ慣れてきていたので作業しながら周りを見渡す余裕も出てきていた。スタンドにガソリンを入れにくる人、灯油を買いに来る人。もっと向こうを見渡すと道ゆく親子連れ。家路を急ぐサラリーマン、学生さんたち。これを運送業の地平とする。
その時だった。ふと私は、こっち側にいる私の世界(運送業の地平)とあっちにある世界(福祉の地平)があることに気づいた。それは見えない線で境界が引かれているようだった。もうあっちの世界は遠く彼方にあって私が入り込むことのできない理解不能な場所なんだと思った。福祉の現場にいて確かにたくさんの子どもたちを見てきたつもりだった。そしてその家族も。社会というものをわかっているつもりだった。でもこうして街に出て仕事をしていると、社会は分断されてしまうということをこの時知ったのだった。働く場所が変われば見える風景も違ってくる。これはすごい発見だった。
社会には、働く人々の所属によって層が決まっていて、その層を超えて違う層の人を理解することは簡単そうで実は難しいことなんだと思う。SNSなどが発達してもこれは変わらないのだろう。そんなことを某ガソリンスタンドから見える風景の中で考えた。