
もうすぐ本格的な冬がやってくる頃だった。新米ドライバーの私は雪道を走ったこともなく当然タイヤチェーンもつけた経験がなかった。先輩ドライバーから雪道走行について色々と話を聞いた。積荷を積んでいる時はその重みでなんとか進む。スタッドレスタイヤでも十分だそうだ。しかし荷下ろしをした後の空車状態だと途端にグリップ力が弱まって滑る。そうなるとチェーンの登場となるわけだ。真冬の雪にまみれながらのチェーンの装着は苦行そのもので、手指の感覚はなくなるし寒風吹き荒ぶ中の作業はそれはそれはしんどいとのこと。
そんな話を聞いていたのとプロドライバーの端くれとしてこれはちゃんと練習しておかないといけないと思い、配送の終わった後の時間を使って構内で着脱の練習を行なった。整備工場の奥にチェーンを見つけさて運ぼうと抱えようとしたところ
「お、重い」
想像はしていたが実際に持つとその重さに驚く。10から12㎏はあるだろうか。軍手は途端に茶色になった。それを表と裏があるのでそれをちゃんと見分けて両腕で広げながらタイヤにどさっと覆いかぶせる。この時注意しないといけないのが、タイヤとタイヤの間にチェーンを落とさないことだ。一旦落としてしまうと外すのが大変でかなり時間のロスになる。タイヤにかぶせたなら、奥側のチェーンを手を奥に差し入れながら引っ張って留め具で固定する。これがなかなか難しい。そこでチェーンの先端に針金をひっかけておくか、ビニール紐をくっつけておくとやりやすくなる。
これで内側はくっついた。今度は外側である。内側が固定されたものの内側寄りにチェーンが固まっているので外側はあまり余裕がないのでパッツンパッツンに張った状態で装着しないといけない。これもまた力がいる。これで内側も外側も固定されたならトラックを少し動かして緩みをとる。必要であれば再度締め直す。
この時勉強になったのが、案ずるは産むが易しでチェーンの装着の練習を実際に始めてみると「なるほど。こんなものなのか」と気持ちが落ち着いてきたことだ。確かに重たいし大変だけど、やり方さえ覚えておけば雪道もなんとかなるな、と思った。嬉しかったのは、営業所の重鎮がやってきて静かに見守りながら時折「こうしたらええよ」とアドバイスをくれたことだった。頑張りは認めてもらえる。