トレーラーバックの聖地があった

先輩方はいとも簡単に大型トレーラーを操舵し、当たり前のように出勤し点呼を受けて乗務をし配送を終わらせ終業点呼をして帰っていく。新人ドライバーの私はその一つ一つが大きな出来事のように感じていた。要するに毎日全力で仕事に取り組まないとならないぐらいどれもハードルが高かった。その中でも一番緊張していたのが大型トレーラーの乗務で、そしてその中でもトレーラーバックであり給油口へトレーラーを寄せることだった。

ガソリンスタンドの構内というのは障がい物がたくさんあり、場合によってはトレーラーを給油口に対して平行に寄せた後ヘッドをくの字に折らないといけないところもあったり難易度がめちゃくちゃ高かったりした。そんな時はトレーラーを寄せることとヘッドを折らないといけないという幾つものミッションで頭の中が大混乱を起こすのだった。これがスタンド構内だけで完結すれば良いのだが、そうもいかないところがあって、それは道路からバックをしないといけない場合だった。その場合、道路を往来する乗用車をしばし停車させることになる。私はバックが下手くそだったのでこの乗用車をかなりの時間待たせてしまい大渋滞を引き起こしてしまったことも幾度となくあった。そんなわけで私は大型トレーラー 乗務の日は胃がキリキリしてしまうのだった。

その中でもとりわけ難易度の高い「トレーラーバックの聖地」と呼ばれるスタンドがあった。先輩方曰く「最近はトレーラー配送で難しいところは無くなった。なぜなら構内の広いスタンドが多くなったから」と、そして「ここ(聖地)は新人にとってはトレーラーバックを練習する最後の場所だ」とも。そこはトレーラーを右に折りながらヘッドで押していくのだが最後ヘッドを起こす際に道路脇の電信柱に当てないようにしないといけないという難関がある。加えて道路バックなので往来する乗用車を止めなくてはならない。新人大型トレーラー乗りの私は当然のこと一回で入れられるわけもなく何度も切り返してしまうし加えて下車確認も何度もするため乗用車が大渋滞を起こしクラクション鳴らされたりで大惨事になることが常だった。胃が痛くなるのはこのためである。

先輩方はそれでも辛抱強く私のトレーラーバックを見守ってくれた。道が渋滞を起こせば乗用車に向かって頭を下げてくださった。普段は厳しいことも言われたが、いざ現場に入るとこうやって体を張って真正面から教授してくださるのだ。感謝しかない。そういう意味で私のなかでここはトレーラーバックの聖地であったし登竜門でもあったのだ。

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