当時48歳のこれと言って特技をもっていないおじさんが仕事を失うということ

自分で勝手に決めたことだが、大型トラックに乗って仕事をしたいと18年ぐらいキャリアを積んだ職種から大胆不敵に転職を敢行し、半年で見事体調を崩して電撃的に退職するという失敗だらけの人生期間を経験した。その失敗が更に私を恐怖に陥れたのが、無職になるという恐怖だった。過去に何度も転職していたが必ず次の職場が決まってから退職願を出していた。なぜなら無職になりたくなかったから。なので着実に転職を敢行していた。

しかしこの時だけは違った。そう、退職代行業者にお願いしないといけないぐらい体調不良になり夜逃げ同然に逃げ出したわけだから、それは取り乱しながら後先考えずにという表現がぴったりなのだった。そう、逃げた時点で次に行くところは決めていなかった。こんなことはこれまでの転職人生では初めてだった。逃げ出したのが2月の中旬。逃げ出した時はとにかく体を休めることだけを考えていたので半ば放心状態で日々をすごしていたが、だんだんと体調が回復軌道に乗るに連れ回りの風景がだんだんと見えてきたのだった。

「違う。僕の住んでいる地平とは違う地平が世の中にはあるんだ」

とその時は思った。なぜそのように思ったかと言うと、僕は無職である。この先お金のことを心配して生きていかないといけないかも知れない。養育費を払うこともままならなくなったら娘とも会えなくなる。娘の生活する地平とも交差しなくなる。友人知人も仕事をしており、彼らの経済生活地帯には僕は近づけなくなるのかも知れない。とある親子が楽しそうに談笑しながら公園の中を横切っていく。あの、笑顔、平和な風景、僕は無職になることでもう同じ次元には住めなくなるのだ、と強い恐怖感が襲ってきたのだった。

この恐怖感はなんと表現したら良いだろうか。生来の孤独感に最終的な一撃を喰らわせる最強の孤独感だったとでも言おうか。当時48歳だった僕はたいした資格ももっておらず、それまで経験だけで世の中を渡り歩いてきただけだった。結局転職は失敗に終わり、それまでのキャリアはまったくのゼロベースにリセットされてしまった。こうして無職になってみてはじめて自分の無力さを知ったわけだ。ホームレスの人のことを悪く言うつもりはない。この時正直に僕はホームレスになるかもしれないと自覚した。そこまで行かなくても非正規の仕事に就く自分も簡単にイメージできた。今ある自分の生活が足元からガラガラと崩れていくことは簡単に想像できるぐらい、そう、材料はそろっていたのだった。

今でもその当時感じた恐怖感は忘れることはない。今いる地平がちょっとした掛け違いでガラガラと崩れるということがあるということを身を以て体験した。もうあの当時の死んだような目をして公園のベンチに座り人々の地平の境はどこだろうと見つめる自分には戻りたくない、と真剣に思う。じゃあ、向こう側の地平に行かずに今の地平に踏みとどまれたのはどうしてだろう。それについては今でも時々思い出してみることがある。でもよくわからない。運が良かっただけかも知れない。ただ一つ言えるのは、その人々の住む地平の境目をはっきりと自覚できたから次に向けて動けた、というのはありそうだ。

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