
僕は離婚した後、公団に1人でずっと住んで今日に至る。その間に娘は中学生になった。
先日娘と電話で話をしていると、娘の声の向こう側からカタカタとミシンの音が聞こえてきた。ぐわんと時間を引き戻される感覚。たしかあの家にぼくが住んでいた頃、元妻はよくミシンで服を作っていた。
あの当時のこと。娘は離婚が決まって出ていく僕を泣きながら「いやだ。出ていかないで」と言った。それでももう夫婦の間に生じた亀裂は埋められる状況にはなく、娘の声もどうしようもうなくその深く刻まれた亀裂に吸い込まれていった。
ミシンのカタカタという音に僕は嫌な気持ちはしなかった。あのミシンがカタカタ鳴っている頃の日常はまだ穏やかな日常だったからだ。
もう戻れないほどそれぞれ違う人生を歩いてきている。でも元妻が今もこうしてカタカタとミシンを動かしていることは、日常が穏やかなのだろうと勝手におもって、何か嬉しかった。
切なくなります。でも、いい文章ですね。離れていても、家族って心配し合っているんですね。
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読んでくださりありがとうございます😊今は良いことしか思い出しません。これで良いのだと思っています。
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