
「僕は大学には行きません。働きます」
と言って大学進学を諦めたのは僕ともうひとりの生徒だけだった。ほかのみんなは大学進学もしくは短大に進学して行った。
交差点で隣に4トントラックが僕の車に並び止まった。見上げると20歳ぐらいの若い青年がハンドルの上に身をもたれかけながらカップ焼きそばを食べていた。
今から約30年前。この青年のように4トントラックに乗って一般貨物を配送していた。その頃はバブル景気といわれそれが弾ける前夜で、僕のいた中小の運送会社も荷物で溢れかえっていた。毎日が忙しくターミナルに何度も出入りして荷物を積み込み配送していた。きつかった。肉体労働に長時間労働。それでいて安い給料。今で言うブラック企業だ。自分で選んだ仕事だったので文句を言わず働いた。
手でおろした僕史上最高に重たい荷物は、道端にある車侵入禁止のためのもので丸々コンクリート製の支柱それも2本。工事現場なので「そこにおろしといて」と現場監督のような人に言われ、腰が砕けんばかりにエイヤッと地面におろした。その現場だったところのその支柱を見るたびによく思い出したものだ。
あれから30年が過ぎようとしている。隣でトラックのハンドルをにぎる20歳そこらの青年がこの先どのような人生を歩むのかは僕は知らないだろうし知る必要もない。ただ20歳だった僕はその後海外へ留学をし戻ってきて大学へ進学した。一つ言えるのはあの時トラックのハンドルを握っていたのは君のような僕で一つ一つのできごとが奇跡のようにつながって今こうして君と並んでそばにいるということだ。