
「おう、食べろ」と祖父が小学生だった僕の机の上にいつもバナナをおいていくのだった。祖父の世代にとってバナナは格別な食べ物なのだ。でも駄菓子に慣れてしまった僕はいつもそのバナナの存在を無視していた。放置されたバナナは段々と黒くなっていく。それでも祖父は「食べたか?」と聞くこともなく次から次へと飽くことなくバナナをおいていくのだった。今、50代を目前にして思うに、祖父の気持ちが痛いほどわかるのだ。祖父は寂しかったのだろう。寂しいから孫である僕に喜んでもらおうとおもってバナナを買ってきてはおいてくれていたのだ。バナナを喜んで食べる姿を見たかったのだろう。でもバナナは黒くなっていた。今でも寂しそうな祖父の背中が思い出される。わるかったなあ、と思う。祖父はどんな思いで黒いバナナを見ていたのだろうか。