
「先生お酒をやめることが出来ないのです。助けてください」と言ったのがちょうど900日前の今日。その日僕は心療内科の診察室にいて先生に泣きついていた。もう自分ではどうしようもできないという思いからだった。
確かあの時はひどく酔っ払っていて記憶も曖昧なまま帰宅したのを覚えている。何かしでかしたことは薄っすらと覚えていたが眠気に勝てずそのまま倒れるように寝てしまっていた。こんなことは日常茶飯事だった。「また何かしてしまったのか?」という後悔も毎度のことだったが、その時はさすがに「やばい」と思って流すことができなかった。どうしても思い出せないのだ。明らかにまずいことをしたはずなのに。そして湧き上がってきたのが「このままだと本当にまずい状況になる。」との焦りの気持ちだった。このままだと仕事も生活もすべて失ってしまう。そうなると子どもへの養育費も払えなくなってしまう。子どもが困ってしまう。なんとかしなくては。もうお酒に飲まれる生活から足を洗わないといけない、と強く思った。
そしてもう自分ではどうしようもできないと判断をし、最初の診察室のシーンに戻るのだった。先生は僕を射るような眼差しで見つめながら「わかりました。薬をだしましょう。今日から一滴も飲んではいけません」と厳しく言った。僕は静かに「わかりました」とうなずくのみだった。その日から900日。断酒して最初の1周間は本当に苦しかった。炭酸水やコーラでなんとかしのいだが、1週間後からは平気になった。それと同時にぐっすり寝られるようになって、その爽快感にはっきりと効果を感じるようになってきた。
900日が長いのか短いのかわからない。一つ言えるのはお酒を止めたその日からうつ病の治療が本格的に始まった。なぜなら睡眠がしっかりとれるようになったから。900。それは再生に向けた上り階段の段数なのだ。